AIと医療との関わり合い

AI技術の飛躍がすごい。ここ最近の話だと、アルファ碁が世界最強クラスの棋士であるイ・セドル氏を圧倒的な強さで勝利していた。

知的ゲームの最高峰とも言える囲碁で機械が人間に勝った。となると次は当然、それを実際の知的作業に適用しようとするのが当然の流れなのだと思う。

実際、IBMはワトソンを開発し、医療の現場に対し、画像診断などにその技術を活用しようとしている。

 

そのような流れの中でよく見かけるのが、「画像診断に関わる医者はそろそろ失業時代が来る」と言ったある意味扇動的な話。

実際これってどうなんだろう。確かに、特定の画像情報や臨床所見がありさえすればall or noneで確実に判断できる疾患、ということであれば「その仕事は機械に奪われる」と言っても良いのかもしれない。(そういう理由で特定の癌の診断からスタートしているのだと思う)

 

だけど僕自身はそんなに単純な話ではないと思っている。むしろ画像診断に関わる医師の仕事量は変わらないのではないかとさえ思う。忘備録として、その根拠を適当に書き記しておきたい。

 

1.AIは逆問題に答えられない

AIを実際の医療現場に入れる中での一番大きな問題はこれだと思う。AIは莫大な元データの中から、膨大な演算処理をかけて結果を弾き出している。その処理体系は人間がやる処理とは根本的に異なっているため、AIが弾き出した結論に疑問があった場合、それに答えることができないという問題をはらんでいる。(仮に全ての演算処理を1つ1秒で答えたとして、その全てを提供したらそれだけで人間の一生が終わってしまう)

 

2.そもそもの元データに全ての臨床データが入っているとは限らない

AIを教育するのは基本的には医師を中心とした医療従事者により作られるデータであるが、人間の機能はまだ完全に解明されていない以上、教育用のデータに誤りがある可能性は非常に高いと言える。つまり、不完全な情報で教育されたAIが必ずしも100%正しい結論を導いてくれるとは限らない。

 

3.確定に至るまでに使えるプロセスが病院間で一致しているとは限らない

診断を下す際、どのようなモダリティを使えるか、というのは病院によって異なるケースが大半だと思う。そのような背景がある以上、同じ疾患の診断の場合でも、

(a)MRI + CT で結論を出す (b)CTのみで結論を出す

のような違いが生まれてくることになる。そのような違いを自ら能動的に判断することはAIには難しい。

 

4.モダリティの発展に対応ができない

AIは大量のデータから学習しないとその力が発揮できない以上、モダリティの進歩についていくことが困難である。画像に写る情報量は年を重ねるごとに精度を増している。(画像の鮮明さなどにもそれは現れている)

AIはユークリッド空間的な差を読み取ることで診断をかけているので、このようなモダリティの性能上昇に伴うデータのばらつきに対応するのが難しいのだと思う。

また、そもそも全く新しい原理のモダリティが出てきた場合、AIは全く無力となる。

 

5.診断能力は AI only < AI + 人間

そもそものところで、診断能力は高ければ高いほど良いはず。(もちろんそれに伴って医療コストをいくらでも上昇させられるわけではないが、それは一旦議論から外しておく。)

基本的に、AIだけで診断させるよりも、AIと共同してやった方が診断能力は強力になる。であるのなら、わざわざ全自動化させるメリットも少ないと言える。

 

ざっと挙げられると以上のような理由から、AIが完全に画像診断の仕事をreplaceすることはないと思う。ただ、だからと言って今のままの形で画像診断が残る訳でもなさそうで、これからはいかにAIの利点を活かせるか、というのも画像診断に関わる医師の資質になってきそうだ。